お隣のランペルージさん
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「……えっと、どなたですか?」
初めて会うマリアンヌに警戒心をあらわにしながらスザクが問いかける。ここで『誰だよ、お前』と相手を指ささなかったのは、当然ルルーシュの教育の結果だ。
「マリアンヌ・ランペルージ。ルルーシュとナナリーの実の母よ」
言われてみればルルーシュによく似ている。しかし、その立ち振る舞いは異なっていた。
なんと言えばいいのか。
ご婦人と言うよりは戦士というべき体の動きだ。
どう攻撃をしても勝てない。そう思わせてくれる。
その女性がルルーシュの母親と言うことが今ひとつ飲み込めない。
どう見ても彼女はルルーシュの年の離れた姉にしか見えなかったのだ。
「初めまして。枢木スザクです」
それでもなんとかルルーシュにたたき込まれた礼儀作法を思い出してこう口にする。
「あら、いい子ね。挨拶はきちんとできるのね」
次の瞬間、微笑みながらマリアンヌにこう言われた。おまけに頭までなでられる。
「あの……」
「どんなくそがきを押しつけられたかと思っていたけど、十分矯正可能ね」
うふふ、と笑うマリアンヌに恐怖すら覚えた。
「あら。そんなに堅くならなくても、素直ないい子ならそこまではしないわよ?」
そう言われてもうなずけない。救いを求めるように視線をさまよわせれば、ルルーシュが口の動きだけで『諦めろ』と伝えてきた。
「ルルーシュ」
「何ですか、母さん」
「この子、鍛錬に付き合わせていいのよね?」
「大けがをさせない程度でしたら」
強くなるのは大歓迎だろうし、とルルーシュが言葉を返している。
「……って、本気?」
おずおずと問いかけた。
「もちろんよ。礼儀をたたき込むのに鍛錬は役立つもの」
あぁ、これは間違いなく本気だ。同時に、自分の命が風前の灯火になりつつあるとスザクは理解する。
「と言っても、ブリタニアの新兵なみの訓練はやらないけどね」
体ができていないうちにそこまでやってしまえば毒にしかならないだろうから。マリアンヌはそう言って微笑む。
「簡単に言えば、私の体力と体重維持のために付き合いなさい、と言うことよ」
拒否権はないわ、と続ける彼女にスザクは本気で自分の命の心配をすることになった。
「ルルーシュ……」
不安そうな声でスザクは彼の名を呼ぶ。
「頑張れ、スザク」
口先だけでルルーシュがそう言い返してくる。
「母さんが一度言い出したことは父上でも翻せない」
つまり、誰もマリアンヌの言動を止めることができないと言うことだ。ルルーシュはそう告げた。
「……俺、生き残れるかなぁ」
ぼそっとルルーシュはそうつぶやく。
「大丈夫だろう。ナナリーもいっしょにやると言っているし」
そこまで厳しい内容ではないはずだ。ルルーシュは小声でそう続けた。
「でも……」
「いい子にしていたらちょっと厳しくするだけよ」
大丈夫、礼儀作法だけではなく実力も付くから。マリアンヌがそう言って口を挟んでくる。
「強くなれる?」
「えぇ」
「ルルーシュを守れるくらい?」
「もちろんよ」
「そうしたら、ルルーシュを嫁にもらえる?」
こういうときに爆弾発言をするな、とルルーシュに頭を叩かれた。
「俺はいつだって本気だ!」
それにこう言い返す。
「僕は男だ!」
「男でもいいよ」
「僕はよくない!」
それに、とルルーシュが付け加える。
「ブリタニアも日本も、同性婚は認められていない」
「そんなの、法律を変えればいいだけだろう」
世界の方が間違っている、とスザクは言い切る。同性だろうと異性だろうと好き合っているもの同士が結婚すべきだとも。
「お前なぁ」
ルルーシュがさらに反論をしようとする。
「本当に楽しい子ね。なら、ルルーシュにふさわしいかどうか、確認してあげるわ」
そんな二人の耳にマリアンヌの楽しげな声が届く。
「俺、死んだ?」
そう問いかけるスザクにルルーシュはため息だけを返してきた
19.10.02 up