お隣のランペルージさん
36
「自業自得ですわ、お従兄様」
温泉へと着いた瞬間、神楽耶に拉致される。そして、顛末を聞き出された後こう言われた。
「いい加減、諦めればよろしいのに」
「いいだろう、別に」
ルルーシュは家事万能なんだ、とスザクは口にする。
「美人だし、性格もいいし……それなのにどうして男なんだよ!」
それがなければ桐原に頼み込んで婚約するのに、と彼は続けた。
「無理でしょう?」
年下でかわいくもない男なんて、と神楽耶はあきれたように告げた。
「お従兄様と婚約なんて、わたくしでもごめんです」
さらに彼女はこう付け加える。
「お前ねぇ」
「もし、億が一にでもそうするとするならば、性根を最初からたたき直していただきます」
「つまり、マリアンヌさんが俺を鍛錬に誘うってことはそういうこと?」
「それ以前の話だと思いますわ」
あきれたような視線と共に神楽耶がそう言いきる。
「ご自分の礼儀作法が完璧なものかどうか。まずはそれをお考えになればよろしい」
そう言われると反論のしようがない。
「ともかく、ルルーシュ様を嫁にという世迷い言はさっさよろしいでしょう」
言葉と共に神楽耶は立ち上がる。
「そうでなければあの世を見ることになるかもしれませんわね」
最後のセリフがものすごく怖い。
「お、おい!」
「ナナリー様に誘われていますの。これからお風呂に入ってきますわ」
スザクに口を挟ませることなく神楽耶は言い切る。そして、その場を後にした。
彼女の後ろ姿をスザクは黙って見送る。
その姿がなくなったところで、スザクはあることを思い出す。そしてものすごく恐怖を感じた。
「そういえば、刺激の与え方で記憶がなくなるという話があったっけ……」
ルルーシュがそこまでするとは思えない。しかし、マリアンヌはどうだろうか。
記憶喪失にしておいて一から教育する方が楽だと言い出しかねない。
そう考えた瞬間、体がぶるりと震えた。
「やぁね。そこまですることじゃないわ」
マリアンヌがころころと笑いながらそう告げる。
「第一、そんなことをしても意味がないでしょう?」
あの子のあれは一種のあこがれのようなものだから。マリアンヌはそう言うと微笑む。
「あこがれ、ですか?」
意味がわからないと言うようにルルーシュは首をかしげた。いや、彼だけではない。ナナリーと神楽耶も同じように首をかしげている。
「普通の家庭の味よ。ルルーシュの手料理はおいしいでしょう?」
「はい!」
「何時もおいしいです」
ナナリーと神楽耶がいい子の返答をした。
「……そんなことはないと思うけど」
ルルーシュがそうつぶやく。だが、マリアンヌは感知しない。
「胃袋と捕まれるのと恋愛感情がごちゃごちゃになってしまったのよね」
だから、大きくなったら忘れるだろう。
「第一、ルルーシュも貴方も、いずれはブリタニアに帰るのよ?」
離れてしまえばいずれは思い出の中に消えていく存在だ。好きという感情もきっといっしょに消えるだろう。マリアンヌはそう続けた。
「だといいのですが」
それだけではないような気がする。ルルーシュは心の中でつぶやく。
「まぁ、初恋を忘れないタイプだという可能性もあるけど」
まるでルルーシュの思考を読んだかのようにマリアンヌはこう付け加える。
「お母様!」
「でも、ブリタニアまで来れないだろうし、それに、来たとしてもどうやって探すのかしら?」
広いわよ、ブリタニアは……と微笑みながらナナリーの髪をなでた。
「それに、軍部が私の情報を流すとは思えないしね」
そこまでマリアンヌが言ったところでようやくナナリーは安心したようにため息を付く。
「本当に申し訳ありません」
神楽耶がそう言うと頭を下げる。
「あら。貴方が謝る必要はないでしょう?」
「ですが……」
「年下の子にかばわれるなんて、男としては最低でしょう?」
そのあたりも含めて明日から頑張ってもらいましょうか。そう告げるマリアンヌを見ながら『スザク頑張れ』と心の中でつぶやくしかできないルルーシュだった。
19.10.13 up