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お隣のランペルージさん

37


 ルルーシュは神楽耶と共に庭を見つめている。そこではマリアンヌがスザクとナナリーに稽古をつけていた。
「もう一周ね」
 にこやかにマリアンヌがそう告げる。しかし、二人にはそれに反論する余裕はない。
「……大丈夫か?」
 不安そうにルルーシュがそうつぶやく。
「二人ともふらふらだが」
「そうですわね。いくらお従兄様でも限界ではないでしょうか」
 神楽耶も同意をするようにうなずいて見せた。
「母さんがそのあたりを見誤るとは思わないが」
 それにしても理由がわからない、と首をかしげる。
「あの子達、まだ限界じゃないもの」
 不意に母の声が耳元でした。
「母さん、それって……」
「あの子達、適当にサボっているのよ。だから、お仕置き」
 まさか、と思う。神楽耶もそうだったらしい。
「そんな頭、あのお従兄様にあるとは思えませんが……」
 ルルーシュに嫌われたと言って落ち込んでみたり、手料理一つで礼儀作法をたたき込まれに行くのに、と彼女は続ける。
 確かにそれはそうなんだが、まじめな表情でそう言われるとなんとも言えない。
「なら、スザク君は無意識ね」
 問題はナナリーの方か、とマリアンヌはつぶやくように告げる。
「あの子がそんなことをするはずが……」
 ないでしょう、とルルーシュはつぶやく。
「あら。あの子はあれでかなり要領がいいわよ。でなければユーフェミアやカリーヌとやり合えないでしょう?」
 ルルーシュが見ていないところであれこれとやらかしてくれているわよ、とマリアンヌが教えてくれた。
「……嘘だ……」
 かわいい妹たちが自分に嘘をついていたなんて、とルルーシュは呆然と口にする。
「女は好きな相手の前では演技ができるものよ」
 むしろスザクのようにストレートな感情をぶつけてくる方が珍しい。マリアンヌはそう言いながらルルーシュの髪をなで始めた。
「それを知っていながらも知らない振りができる男がいい男なの」
 女の子の頑張りは認めてあげないと、と髪をなでながらマリアンヌが言う。
「そうですわよ、ルルーシュ様。女の秘密を暴くのは愚の骨頂ですもの」
 さらに神楽耶までもが賛同する。
「基本、皆貴方の前ではいい子よ」
 猫をかぶっているとも言うわね、とぶっちゃけるマリアンヌにルルーシュは涙目になる。
「皆、いい子だと思っていたのに……」
「大丈夫。ちゃんといい子だから。ただ、男の子の前で見せる姿と女の子同士で見せる姿が違うだけよ」
 ルルーシュだって女の子達の前では見せないようなことをしているんじゃないの? とマリアンヌが問いかけてきた。
「……僕は何時も変わりませんよ?」
 母さんは違うのですか? とルルーシュは真顔で問いかける。
「お前はずっとそのままでいてね」
 意味がわからずに悩んでいるルルーシュにマリアンヌはこう言って笑った。

 結局、スザクとナナリーは十二周してランニングを終わらせた。

「さすがにきつかったようね」
 小さな微笑みと共にマリアンヌはそうつぶやく。
「でも、これで二人の体力の限界はわかったし……明日からは体力にあわせた鍛錬ね」
 軽い素振りと柔軟かしら、とつぶやきながら振り向いた。
「貴方はどう思う?」
「……気づいておられましたか」
 そう言いながら姿を現したのは藤堂だ。その背後に朝比奈の姿もある。
「あれだけじっとりとした視線を向けられていてはね」
 からかうようにマリアンヌが言えば藤堂がぎょっとしたように目を見開く。だが、すぐに朝比奈へと視線を向けた。
「朝比奈! 無礼な行為はしないと言うから連れてきたのだぞ」
 と言うことはそばにいる青年の勝手な行為なのか。マリアンヌはそう思いながら視線を移す。
「だって、藤堂さん。ただの軍人でしょう?」
 それなのに、どうして……と朝比奈は不満そうに口にする。
「お前がこれから話すことを絶対にスザク君やカレン君に知らせないというのであれば真実を教えるが……」
 もし、万が一にでも悟られるというのであれば教えられない。藤堂がそう言い返す。
「ただ、これだけ入っておく。その方は軍でもかなりの地位におられた方だ」
「とりあえず騎士侯ではあったわよ」
 今はそれ+で別の立場もあるけど、とマリアンヌは笑いながら告げる。
「騎士侯?」
「ブリタニアの制度よ。一般の兵士よりも身分が上になるわ」
 一般の兵士では持ち得ないような技能を持った人間の総称だと思えばいい。貴族だろうと平民だろうと、それは同等に評価される、とマリアンヌが続けた。 「それだけではないのだがな」
 ため息交じりに藤堂が口にする。
「その方はブリタニアでも五指に入る技量の持ち主だ」
 自分では太刀打ちができない、と彼は口にした。
「何なら、明日の朝、勝負してみる?」
 そうすれば一発でわかるだろう。マリアンヌはそう言って笑う。
「彼の言葉の真偽を調べるよりもそちらの方が納得できるでしょう?」
 違う、と言えば彼はうなずく。よほど自分の技量に自信があるらしい。
「朝比奈……やめておけ」
 あきれたように声をかける藤堂が少しだけ哀れだった。



19.10.20 up
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