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お隣のランペルージさん

38



 朝起きたら、なぜかマリアンヌと朝比奈が試合をすることになっていた。
「なんで?」
 スザクが問いかけてくる。
「僕が聞きたい」
 即座にそう言い返した。
「でも、ちょっと楽しみです」
 お母様が勝ちますわよね? とナナリーは楽しげな表情で問いかけてくる。
「たぶん楽勝だとは思うが……相手もそれなりにできそうだね」
 ルルーシュは冷静にそう言い返す。
「朝比奈さんは道場でも藤堂さんに次ぐ実力者だぜ」
 楽勝と言うことはないと思う、とスザクが口にした。
「どうだろうな。母さんはあれでもブリタニアで一二を争うと言われているし」
 軍人達の大会で優勝したこともあるらしい、とルルーシュは言い返す。
「マジ?」
「本当だよ。僕たちを妊娠した期間は鍛錬を休んでいたから鈍ったと言っていたけど……それでも、十位ぐらいには入っていたそうだし」
 次の年には復調してトップ3は譲らなかったはず、とルルーシュは続けた。
 その声が聞こえていたのだろうか。朝比奈の顔色がどんどん悪くなっていく。
「自業自得だろうが」
 小さな声でそう告げたのは藤堂だ。
「彼女が《女性》だと言うだけで甘く見ていたようだからな」
 ここでたたきつぶされるのもいい経験だろう。そう彼は続ける。
「いいのですか?」
「かまわん。むしろ一息でたたきつぶしてもらった方があいつのためだ」
 なまじそれなりに才能があるだけに天狗になっている。自分よりも強い存在を目の当たりにすればそんな気持ちもなくなるだろう。そう言いながら藤堂は静かな視線を朝比奈へと向けた。
「ついでに《あれ》もなくなってくれるといいのだが」
 それがなんなのか、ルルーシュにはわからない。
「スザク、意味がわかるか?」
「……まぁ、な」
 そう言うと彼は視線をそらす。
「お従兄様、ずるいです。わたくしにも教えてくださいませ」
「私も知りたいです」
 神楽耶とナナリーが口々にそう言いながらスザクに詰め寄っていく。
 いったいどうやって二人を止めようか。そう思ったときだ。藤堂が立ち上がる。
「では、そろそろよろしいか?」
 試合を始めても、と彼は二人に問いかけた。
「いつでも」
 マリアンヌは微笑みながらそう言う。その手には訓練用の木剣が握られている。
「……はい」
 逆に木刀を握りながらうなずく朝比奈の表情はさえない。
「では、双方位置について」  それを無視して藤堂は静かに言葉を発する。それに二人は従い位置に着いた。
「はじめ!」
 次の瞬間、藤堂がこう告げる。
 二人の得物がぶつかった。
 そう思ったときにはもう、朝比奈の手から木刀が吹き飛んでいる。
「勝負ありね」
 朝比奈の首筋に木剣を押し当てながらマリアンヌが宣言した。
「確かに。これが実戦であればお前は死んでいたぞ」
 さらに藤堂がこう言う。
「見た目だけで相手を判断すると大変なことになるわ。今回が訓練でよかったわね」
 締めくくりというようにマリアンヌが口にした。
「お母様、すごいです!」
 そんな彼女をナナリーが素直に賞賛する。
「予想通りで詰まりませんわ」
「仕方がないよ。実力差が大きすぎる」
 あきれたように告げる神楽耶はルルーシュが諫めた。
「……人って、あそこまで動けるんだ」
 目の前の衝撃が大きすぎてスザクは呆然とつぶやくだけである。もっとも、それは朝比奈も同じ感想だったのではないか。
「と言うことで、君も明日の朝からいっしょに鍛錬ね。実力差がありすぎてスザク君をしごくのも難しいのよ」
 さらにマリアンヌがこう言う。
「二人の体力の限界もつかんだし……明日から少し厳しくするわね」
 そうすれば食事もおいしいし、お風呂も待ち遠しいわ。そう告げるマリアンヌに二人は反論できない。
「貴方もよ、ナナリー。基本だけはしっかりと身につけなさい」
 そんなスザクに何かを言おうとしたナナリーだが、それよりも早く母にこう言われた。
「お兄様と神楽耶様は……」
「二人はね、体を動かすよりも頭を使う方が多くなるでしょう。それに、あなたたちがまとわりついていたらルルーシュが休めないじゃない?」
 だから、ここにいる間はルルーシュを自由にしてあげなさい。そう言ってくれるマリアンヌの気持ちがうれしい。
 同時に、二人がどうなってしまうか。少しだけ怖いと思うルルーシュだった。



19.11.10 up
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