お隣のランペルージさん
39
「二人がいないとゆっくりできるな」
お茶を入れながらルルーシュはそうつぶやく。そして、湯飲みと本を手に広縁へと移動する。
大きく開けた窓のそばにあるいすへと腰を下ろした。
「……さて、少しは勉強もしないとな」
将来、自分がどうなるかはわからない。それでも、兄姉達に迷惑をかけないよう、最低限の知識を身につけておくのは当然のことではないか。ルルーシュはそう考える。
もちろん、何もしないという選択肢もあるが、それでは自分の矜持が許さないのだ。
無為に生きるよりも少しでも学習をして兄姉の役に立ちたい。
もっとも、運動面ではまったく役に立たないが……とため息をつく。
「もう少し運動神経が欲しかったな」
そうつぶやく。
「無い物ねだりをしてもどうしようもないが」
さらにこう続けた。そのときだ。
「ルルーシュ様、よろしいでしょうか」
廊下からこう問いかけられる。
小さく息を吐くと手にしていた本にしおりを挟んでテーブルの上に置く。そして立ち上がるとドアの方へと歩み寄った。
「何でしょうか、神楽耶様」
ドアを開けながらこう問いかける。
「お暇でしたら少しわたくしに付き合っていただきたくて」
この近くにある喫茶店でお茶でもどうかと思って。神楽耶は微笑みながらそう告げた。
「それはありがたいお誘いですが……子供だけで大丈夫ですか?」
普通の喫茶店では断られることもあるが、と言外に口にする。
「大丈夫でしょう。わたくしも何度か足を運んでおります。そもそも、桐原のおじいさまの行きつけですの」
自分がいれば大丈夫だ。神楽耶はそう言いたいのだろう。
「わかりました。では、ご一緒させていただきます」
微笑みながらそう告げる。
「よかった。お従兄様の顔を見るのは、もう、飽き飽きですの」
手をパチンと打ち鳴らしながら神楽耶は喜ぶ。
「では、母さんに断ってからいきましょうか。ナナリー達には恨まれるかもしれませんが」
「ナナリー様には後日、ご一緒すればよろしいかと。家の愚従兄は放っておいてかまいませんわ」
神楽耶はそう言いきった。
「……そうですね」
いったい彼女の中でスザクの位置づけやどうなっているのか。少し疑問に思った。しかし、今までの言動を見れば仕方がないのかと納得する。
「母さんはどこかな」
そう口にしながらルルーシュは歩き出した。
ちょうどナナリー達がいないときでよかった。ルルーシュはそう思う。
「いいわよ。暇でしょう?」
マリアンヌはあっさりと許可を出してくれる。
「でも、子供二人ではダメよ。そうね。藤堂を連れて行きなさい」
彼がそばにいればバカの対処は大丈夫だろう。そう言われて神楽耶がうなずく。
「そうさせていただきますわ」
「では、気をつけてね。あの二人が戻ってくる前に行ってらっしゃい」
「はい」
「行ってきます」
そう言葉を返すとルルーシュはきびすを返す。
「ルルーシュ様、手をつないでくださいます?」
「えぇ」
そのまま手を差し出せば神楽耶が即座に自分のそれを重ねてきた。手をつないだまま藤堂を探しに行く。
藤堂自体はすぐに見つかった。
「喫茶店にですか? わかりました。おつきあいしましょう」
神楽耶の言葉に彼はすぐにこう言ってくる。
「すみません、藤堂さん。予定もあったのでは?」
「あの三人の尻を叩くぐらいですから」
ルルーシュの問いにはこう答えてきた。
「では、かまいませんわね」
「えぇ」
うなずく彼に神楽耶は満足そうな笑みを浮かべる。
「では、ルルーシュ様。いきましょうか。パフェがおすすめですの」
「それは楽しみですね」
神楽耶がそこまで言うパフェならばおいしいだろう。それを再現できるかどうか。試してみたい気もする。
そんなことを考えながら目的地への道を歩き始めた。
19.11.20 up