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お隣のランペルージさん

40


「どうして誘ってくれなかったのですか?」
「神楽耶だけ、ずるい!」
 今日の事実を知った二人が予想通り大騒ぎをしてくれる。
「あなた達が未熟だからよ。それにルルーシュと神楽耶様は休養に来ているのよ。あなたたちと違ってここにこもっている必要はないんだけど?」
 何よりも、とマリアンヌは笑みを深めた。
「三人とも、私が出した課題を克服できていないでしょう? それができたら終わりにしてあげるのに」
 マリアンヌの言葉に二人は目を輝かせる。
「本当ですわね、お母様」
「約束だからね」
 二人は口々にこんなセリフを言う。
「嘘は言わないわ」
 それにマリアンヌは微笑みながら言葉を返した。
 そこだけ切り取れば本当に楽しげな親子の会話だろう。だが、ルルーシュは知っている。マリアンヌの言葉は嘘ではないが、彼女の出す課題が実にえぐいと言うことを、だ。
 おそらく、二人は帰る寸前まで許可をもらえないだろう。
「……そういえば、二人とも……自由研究は進んでいるのか?」
 ふっと思い出してルルーシュはそう問いかける。
「一応は進んでいますわ。この近辺の花を調べていますから」
 家の付近の植物も調べてある、とナナリーは言い返してきた。だから、後はまとめればいいだけのことだ。そうも続ける。
「なら、ナナリーは大丈夫か」
 他の宿題もここに来る前に終わらせてあるし、とルルーシュはうなずく。
「スザクの方は終わったのか?」
 話の流れてそう問いかけた。しかし、彼が視線をさまよわせるだけだ。
 それだけで十分すぎるほど推測が着いてしまった。 「……終わってないんだな?」
 こう言えば、彼は一瞬びくりと肩を跳ね上げる。だがすぐに小さくうなずいて見せた。
「もうじき夏休みも終わりだし……今からだと何ができるか」
「もう少し早くわかっていれば、朝顔の観察なり蛙の観察なりさせましたものを」
 本当にどうしようか、と二人は頭を抱えたくなる。
「自由研究って何かしら?」
 そんな二人に追い打ちをかけるようにマリアンヌがこう問いかけてきた。
「夏休みの課題です」
 ルルーシュは端的にそう告げる。
「提出しないとどうなるの?」
「先生に大目玉、ですね」
 マリアンヌのさらなる追撃にルルーシュは言葉を返した。
「あら、そうなの」
 次の瞬間、彼女はとてもイイ笑顔を浮かべる。
「なら、そちらもおしりを叩かないとダメかしら?」
「……母さん?」
「今からでもできることはあるでしょう? ここの歴史について調べるとか……いろいろとね」
 学業に支障が出るのはダメだわ、と彼女は付け加えた。そう言う子は軍でも使い物になるまで時間がかかるとも。
「だからね。しっかりと今のうちにたたき込んであげるわ」
 今までとは違うマリアンヌの言動にスザクは固まっている。
「母さん」
 トラウマになったらまずいか。そう考えてルルーシュが口を開く。
「なぁに?」
「スザクが自由研究に手をつけていなかったのは、俺の監督不足からです。だから……」
「大丈夫よ」
 うふふふふ、とマリアンヌは笑いを漏らす。それがものすごく不気味だ。
「明日から午前中はみっちりと自由研究とやらをやってもらうわ。当然、それが終わるまでルルーシュとのお出かけはなしね」
「そんなぁ!」
 絶対に無理、とスザクは叫ぶ。
「さて、何がいいかしら。藤堂、いい案はない?」
「そうですね……」
 しかし、マリアンヌはもちろん、藤堂も耳を貸そうとはしない。
「スザク君……自業自得だよ」
 朝比奈の言葉だけがむなしさと共に周囲に響いた。

 なんとかスザクが自由研究を負えたところで温泉旅行が終了。
 ぐったりとしているスザクを横目にマリアンヌと触れあった後で彼女はブリタニアへと帰還した。
 なんだかんだと言って、慌ただしかった夏休みももうじき終わりである。
「まぁ、楽しかったか」
 ルルーシュはそうつぶやくと日記を書き終えた。



19.12.20 up
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