お隣のランペルージさん
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「ともかく、何かいい題材知らない? 日本でメジャーじゃないやつ」
道場への道筋でカレンはこう問いかけてきた。
「そう言われても……僕が知っているのはメジャーなやつだけだぞ」
童話なら、と続ける。
「違うのなら?」
「……悲劇が多いかな」
自分が知っている限りで言えば、とルルーシュは言葉を返す。
「もちろん、ハッピーエンドもあるぞ。でも、そう言うのは大概日本でも広まっている」
国を追われた姫と騎士の話とか、皇帝と平民から成り上がった騎士の恋愛話とか、と言葉を重ねた。
「確かに、そうよね」
「むしろそちらの方がいいと思うよ」
小学生に悲劇は難しいだろう。そう思ってのセリフだ。
「でも、それじゃ他のクラスに勝てない」
せっかくだから一位をとりたいの、と可憐は唇をとがらせた。
「だからといって不出来な演技をするよりもしっかりと練り込んだ脚本と演技で臨んだ方がいいのでは?」
それに、とルルーシュは付け加える。
「衣装なら借りてこられるかもしれないし」
少なくともドレスぐらいなら、と続けた。
「それじゃ不満なのかな?」
「……そうじゃないけど……どうせなら皆が知らないお話の方がよかったかなって」
失敗しても何も言われないし、とカレンは付け加える。
「後で真実がばれるよりいいと思うが……」
ルルーシュはそう言ってため息をつく。
「そもそも、日本でマイナーな話というのは翻訳されていないのでは? 誰が翻訳するんだ?」
ブリタニア語のままでは自分以外読めないぞ、とルルーシュは言外に問いかける。
「あっ……」
「やっぱり何も考えてなかったな」
カレンらしくもない、とルルーシュはため息をついた。
「だって……ねぇ」
「他のクラスに負けたくないか?」
「いいじゃない……と言うことは皆が知っているような話になるのかしら」
「残念だがな」
逆に言えば、そう言うものほど劇の台本になっていることが多いだろう。
「……とりあえず調べてみるか」
「そうして。それから先生に提案すればいいわ」
絶対に2組には負けない。カレンはそうつぶやく。
「2組と何かあったのか?」
それを耳にした瞬間、ルルーシュは首をかしげた。
「アンタが知らないことよ。まぁ、去年のクラス替えからの因縁ね」
いろいろと張り合ってきたのだ、とカレンは笑う。運動会の時だって相当にあれこれやっていたのだが、と言われた。しかし、ルルーシュとしては自分のことで精一杯だったからとしか答えようがない。
「先生方が仲悪いしね」
さらりと付け加えられた言葉でだいたいの状況を飲み込む。
「わかった。二、三日中に返事ができるようにするよ」
「お願いね」
カレンはそういいと安心したような表情になった。
「と言う訳なんです」
ルルーシュは家に着くと即座にオデュッセウスの元へ足を向ける。そして相談を持ちかけた。
「なるほど。小さいとはいえしっかりとした矜持を持っていると見える」
おそらく、彼女たちはその矜持を傷つけられたのだろう。だから、これほどまでに怒っているのではないか。オデュッセウスは微笑みながらそう言った。
「しかし、私は演劇は見る専門なのだが」
「わかっています。ですから、クロヴィス兄さんに声をかけていただけないかと」
彼ならばその方面に明るいから、とルルーシュは付け加えた。
「自分で聞けばいいのでは?」
「……話が脱線して時間切れになりかねません」
自分とクロヴィスが会話した場合、脱線した話を軌道修正するだけで時間を食う。最終的に肝心の所がまとまらないうちに通話時間が終わりかねないのだ。
「あぁ……そうだね」
ペンドラゴンでよく見られた光景である。だから、オデュッセウスも容易に思い描くことができたのだろう。小さくうなずいている。
「では、私から声をかけよう。時差を考えれば、君たちは眠っていてもおかしくはない時間だしね」
素人でも簡単にできる劇の脚本と、子供用の衣装を用意できるかどうか。できれば脚本だけでも早めに欲しい。確認するようにオデュッセウスが言葉を口にする。
「お願いします、兄上」
それにうなずき返すとルルーシュは頭を下げた。
20.01.20 up