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お隣のランペルージさん

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「はい、これ」
 ルルーシュはそう言うとカレンにノートを差し出した。
「これは?」
「脚本だよ。ブリタニア語のものを僕が日本語にしたから多少は言い回しがおかしいところはあるけど、内容を確認するだけなら十分だと思うよ」
 にっこりと微笑みながらルルーシュは説明の言葉を口にする。そうすればカレンだけではなく他のクラスメートも興味津々だ。
「先生に頼んでコピーしてもらえばいい」
「そうね。すぐにでも頼んでくるわ」
 言葉と共にノートを手に彼女は立ち上がる。そのまま駆け出すように廊下へと出て行った。
「……廊下を走っていいのか?」
 その後ろ姿を見送りながらルルーシュはそうつぶやく。
「早歩きだからセーフだろう」
 クラスメイトの一人がこう言ってくる。
「そうなのか?」
 本当に、と彼を見つめればなぜか視線をそらされた。
「カレンだからごまかすと思うけどね」
 本当に普通に歩いているようにしか見えないのよ、あの子。それなのに早いから先生も目を丸くしているし、と女子が教えてくれる。
「それよりも、何の話を選んだの?」
 逆に興味津々で問いかけてきた。
「ブリタニアでは割と有名な子供用の劇だよ。陛下の第三皇子が作られたものだから、オリジナルになるのかな?」
 そう。
 呆れたことにクロヴィスは一週間かからないところで脚本を三つも仕上げて送りつけてきたのだ。小学校の生徒が演じるし、舞台装置も満足にないと言ったのに。ルルーシュだけではなくオデュッセウスも呆れたようにため息をついたのはおとといのことだ。
 休みだからとルルーシュが翻訳作業に取りかかっても夜には終わる程度の長さでなければ時差を無視して文句を言っていたかもしれない。
「内容は好みがあるだろうから、カレンが戻ってきたら読めばいいと思うよ」
 あのロマンチックな兄が作ったものだから、どれもこれもキラキラの内容だ。男子よりも女子が好きそうではある。このクラスは女子の方が強いからそれでいいのだろう。
「三つとも王子様とお姫様の話だけどね」
 そう付け加えれば彼女たちがキャアキャア騒ぐ。
「衣装もつてで借りてあるからその方がありがたいんだけどね」
 登場人物がかぶっている方が、と付け加えた。
「……当然、お姫様はドレスよね?」
「女性陣はだいたいドレスだよ」
 ルルーシュがため息交じりに告げる。
「大丈夫、男子はカボチャパンツでもタイツでもなく普通の長ズボンだから」
 さらに続ければ男子がほっとしたような表情になった。
「でも、これで勝てる!」
「確かに。衣装まで本格的な者を用意してくれるなら、隣のクラスには負けない」
「……背景と小道具は?」
「そこはなんとかするさ。全部借りるわけにはいかないだろう?」
「だよな」
 自分達だってある程度は動かないと、と彼らはうなずき合う。
「しかし、どうしたんだ?」
 随分とあれこれと手を貸してくれるようだが、と男子が問いかけてくる。ルルーシュは去年までのことは知らなかっただろうと彼は続けた。
「……カレンに詰め寄られては、な」
 説明だけでは済まなかった、とルルーシュは少し遠い目をする。
「あぁ……」
「あの迫力で迫られたらなぁ」
 絶対に逆らえない、と男子達がうなずき合った。
「そういうことだから」
「納得した」
「と言うより、納得するしかないか」
「全くだ」
 怖いもんな、と誰かが口にした瞬間である。
「コピーしてくれるって」
 地響きと共にカレンがドアを開く。その顔には満面の笑みが浮かんでいた。
「だから、先生は少し遅れるけど、日直が朝の会を進めていてって言ってたわ」
 そのまま彼女はさらに言葉を重ねる。
「今日の日直、誰だっけ?」
「あ、俺だ……」
「私もだね」
 慌てて二人が立ち上がる。そして教壇の方へと歩いて行く。逆にカレンは自席へと戻ってきた。
「ありがとうね」
 ルルーシュのそばに来たとき、彼女はこうささやく。
「クラスのためだろう?」
 それにルルーシュはこう言い返した。



20.01.31 up
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