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お隣のランペルージさん

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 クラスの皆が選んだのはオーソドックスな恋愛話だった。
 冒険譚も人気があったのだが、背景や小道具の準備を考えればアウトだったらしい。男子がものすごく悔しがっていた。
「あの勇者をやりたかった……」
「仕方がない。時間と場所が足りないんだ……どうして俺たちは休み前にランペルージに相談しなかったんだ!」
 そんな声があちらこちらから聞こえる。
「何を言っているの。その場合、勇者はカレンに決まっているでしょう?」
「そうよ! カレンの方がかっこいいし」
 女性というものはいつどこであろうと理不尽な者だ。男子のささやかな夢と希望をあっさりと打ち砕く。
「それを言うなら、お姫様役はランペルージの方が似合ってる!」
 しかし、なぜ、ここで自分の名前が出てくるのか。
「……僕は男だが?」
 姫役は御免被る、と心の中でつぶやきつつそう主張した。
「大丈夫。ランペルージきれいだし」
「そうそう。一見すると美少女だしな」
 そこいらの女どもが束になってもかなわない。男子は声をそろえてそう告げる。
「なら、それでかまわないだろう?」
 ヒロインをルルーシュ、主人公をカレンにすればいい。そう言ったのはいつの間にか来ていた担任だ。
「他の配役を決めるぞ〜」
 さらに彼はそう続ける。
「ちょっと待ってください! 僕はまだ了承していません」
「そうよ。勝手に話を進めないで!」
 ルルーシュの言葉にカレンもうなずく。しかし、担任はもちろんクラスメートの誰も耳を貸してくれない。それどころか嬉々として役を決めている。
 このままでは学校でも女装する羽目になってしまうではないか。
 それをブリタニアにいる皆に知られればどうなることか。
 はっきり言えばまずい。それだけは避けなければ。しかし、どうすれば暴走中のクラスメートと担任を止められるのだろうか。
「先生! 姫役は女子の方がいいと思いますが?」
 ともかく希望を口にしないとなし崩しになる。そう考えてルルーシュはそう言った。
「男子にだってやりたい人はいると思います!」
 さらにカレンがこう訴える。しかし、誰も耳を貸してくれない。
「……これは……」
「今更変える気はないってことね」
「でも、このままだと決まってしまうよ?」
「それが問題だわ」
 いったいどうすればいいのか、と二人でため息をつく。しかし、打開策が見つからないまま時間切れで決定してしまったのだった。

 ともかく、本国にいる父や母、それに兄姉に知られるわけにはいかない。
 ある意味悲壮な決意をしながらルルーシュは家に帰った。
「お兄様!」
 玄関を開けると同時にナナリーが飛びついてくる。
「行儀が悪いよ、ナナリー」
 そんな彼女を抱き留めながらルルーシュは注意をした。
「だって、お兄様。六年生は劇をすると聞きました。お兄様は何の役をやられるのですか?」
 ストレートにそう聞かれてルルーシュが逆に焦る。
 母上達には知られたくないのに、とそう考えてもナナリーのことだ。ついうっかり聞き出されてしまうだろう。
 それならばいっそ知らせない方がいいのではないか。
 焦ってはいてもそのくらいは考えられる。
「内緒だ」
 にっこりと微笑むとそう言い返す。
「教えてください!」
「ダメだ。母さん達にばらしたくないからな」
 ナナリーは母さんに隠し事ができないだろう? と笑みを深めながら付け加えた。
「そんなことはない、と思います……」
「あるだろう? 昔、母さんの剣を触ったときも結局自分でばらしたじゃないか」
 同じことがないとは言い切れないだろう? と続ける。
 そのときのことを思い出したのか。彼女はさりげなく視線をそらす。
「何よりも知ってしまえば楽しみがなくなるからね。何を言われても教えないよ」
 そう口にしながら『クラスメートと担任には絶対に口止めをしておかないと』とルルーシュは考える。そのためにもカレンの協力は必要だ。
 そのためならば多少の譲歩は必要か。そんなことを考えていた。



20.02.10 up
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