お隣のランペルージさん
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何が何でもクラス外の人間にばらすな。
翌日、学校に行くと同時にルルーシュはクラスメート達にそう命じる。その隣でカレンが武道の技を繰り広げていた。
「先生もいいですね?」
ルルーシュがにっこりと笑いながらそう問いかければ彼も首を縦に振っている。
「邪魔されたくなければ情報は最後まで隠すこと。いいですね?」
大道具を壊したりするような人間はいないと思うが、とそう続けた。その瞬間、誰もが視線をさまよわせる。
と言うことはそう言うことをしかねない人間がいるんだ。ルルーシュはため息をつく。
「カレン?」
「以前、そう言うことがあったらしいのよ……」
うちの学校、学年によっては二クラスしかないから、と苦笑とともに彼女は教えてくれる。
「でも、衣装を汚されるとまずいな」
あれはシルク製だから、とルルーシュは言い返す。その瞬間、カレンが固まる。
「シルクって、絹よね?」
「あぁ」
「それで作られているの? サテンとかじゃなくて」
「シルクの方がドレープがきれいに出るからな」
舞台ではえるからな、とルルーシュは言い返す。
「第一、舞台なんて夢を見せるものだろう? 本物を使わなくてどうするんだ?」
その問いかけに誰もがはっとしたような表情を作る。
「確かにそうだよな」
「でも、学校での劇なんてどうでもいいって思っている人間が多いんじゃね?」
「どうだろうな。昔からの伝統だし……これだけは見に来るって親戚もいるぞ」
「マジかよ!」
そんな会話も聞こえてきた。
「だから、誰に聞かれても自分が何の役をするのかは内緒にしておいた方がいい」
でも、とルルーシュは首をかしげる。
「題名ぐらいは教えてもかまわないんじゃないかな?」
何も知らないというのはいやだろうし、と付け加えた。
「あらすじは?」
「かまわないと思うぞ。それで調べようとするならまじめな人だろうし」
ブリタニアに興味を持ってもらえるならうれしい。そう言ってルルーシュは微笑む。
その瞬間、クラスメートが動きを止めた。
「どうかしたのか?」
意味がわからない、と言うようにそう問いかける。
「アンタねぇ……自分の顔の破壊力を考えなさいよ」
それにカレンが呆れたようにこう言ってきた。
クラスメート達はそれなりに探りを入れられたらしい。その話を聞いて事前に意思を統一しておいて良かった、とルルーシュは思う。
「さて、皆……自分のセリフは覚えたかな?」
練習用にと割り当てられた時間。担任が周囲を見回してこう言った。
「覚えていない人間は今の時間にできるだけ覚えるように。覚えてしまった人間は前後のセリフを覚えてしまえば後が楽だぞ」
彼のその言葉に皆がうなずく。
「と言うことで、一度流すぞ! セリフ覚えてないやつは台本見ながらでいいから」
担任の言葉に全員が台本を開く。
ルルーシュはとりあえず無難にこなすことができたと思う。しかし、やはり女性役というのは今ひとつ納得できていない。
確かに昔は少年が女性役をやったという記録は残っている。
だからといって自分がやるのとみるのでは大違いだ。
カレンも同じ気持ちだったのか。微妙な表情を作っていた。
それでもやると決めた以上はまじめに演じるが、やり過ぎもダメだろう。そのあたりのバランスが難しい。
心の中でそんなことをつぶやきながらルルーシュは読み合わせに付き合っていた。
同時に、クロヴィスに懇願されて劇に出たことまで思い出している。あれはあれで大変だった。特にマリーベルとユーフェミアがおとなしくしてくれなかったから、と心の中だけで付け加える。
それに比べればましだろうか。
考えことをしていても目は台本を追っているし、セリフもきちんと言える。
そう言うところはさすがなのかもしれない。
などと考えているうちに一度目の読み合わせが終わった。
「意外と短いのね」
カレンが時計に視線を向けてこうつぶやく。
「セリフだけだからね。これで動きが加わればそれなりの長さになるよ」
たぶん、規定の時間内に収まるはずだけど……とルルーシュは言う。
「ならいいんじゃね? 話自体は面白いし」
「だよね。後は演技次第かぁ」
「それが難しいんじゃん」
クラスメート達が口々にそう言ってくる。
「だが、その前に台本をきちんと覚えるんだな」
もう一度読むぞ、と言う担任にクラスの皆もうなずいていた。
20.02.20 up