ペーパー小話
水着
「スザクさんはお兄様の幼なじみですよね?」
不意にナナリーがこう問いかけてくる。
「それなのに、どうしてお兄様のことを《女の子》だと思われていたのですか? 一緒に水遊びもされたのでしょう?」
こう聞かれて、スザクは反射的に隣にいたルルーシュへと視線を向けた。同時に紅茶を飲んでいたルルーシュが盛大にむせる。それは間違いなく、最初にあった頃のあれこれを思い出したからだろう。
あれは本当に、お互いにとって出会い頭の事故のようなものだった。スザクにとってはそうではないが、ルルーシュにとっては思い出したくもないことも多いはず。少なくともナナリーには知られたくないはずだ。
「お兄様?」
どうかしたのか、と慌てたようにナナリーが問いかけてきた。彼女にとっては予想外の反応だったのだろう。
「思い出さなくていいことを思い出したんだよな、ルルーシュは」
ルルーシュの背中を軽くたたきながらスザクはそう言う。
「多分、本人にしてみれば黒歴史?」
少し考え込むようにした後でスザクはさらにこう付け加える。どこまで言っていいものかはわからないから、適当に言葉を濁す。それで十分だったようだ。
「それは……知りたいような、知りたくないような……」
少し考えてからナナリーはそう言う。彼女の祖の気持ちは良く理解できた。当事者でなければ知らない方が良かったと思うことも多いのだ。
「知らない方がいいんじゃないかな」
何よりもルルーシュの気持ちを考えれば彼女に知られたくないはずだ。今もどうやってごまかそうか、必死に考えているに決まっている。もっとも、ナナリーにはバレバレのようだ。
「お兄様の様子を拝見すれば納得できます」
この言葉だけで追及をあきらめてくれた。
そこで引いてくれるあたり、本当にナナリーはいい子だと思う。
「……すまない、ナナリー」
ようやく復帰したルルーシュが申し訳なさそうにそう言った。その声がまだかすれている。
「いえ。きっとお母様が原因なのでしょう?」
本当に察しがいい、とスザクは心の中でつぶやく。それとも一緒に暮らしていれば自然とわかることなのだろうか。
「そういうことだ」
苦笑共にルルーシュが答える。
「お母様ですから」
そして、この一言で納得される母親というのは何なのだろう。
だが、自分も『マリアンヌだから』で納得できるのだから同じことではないか。
本当に、彼女は破天荒だ。そして、それだからこそみんなに愛されているのだろう。
その最右翼がシャルルだと言うことが、ある意味、ルルーシュにとっての不幸なのかもしれないが。本当に、さんざん遊ばれている。それがあるから、ナナリーへの被害が少ないのかもしれない。こう言えば、少しはルルーシュの気持ちは軽くなるのだろうか。
ともかくと話題を変えることにする。
「……そういえばクロヴィス殿下から水着が届いていたけど」
何というか、最初の年に見たルルーシュの水着ぐらいインパクトがあった。それを視線だけで告げる。
「忘れろ! 俺はあんなものは着ない」
やはりあれはルルーシュが希望したデザインではないんだ。だ。スザクは心の中でつぶやく。
「斬新すぎました。お母様は笑っておいででしたけど、お父様が……」
「似合っているから困りもんなんだがな」
さすがのシャルルも似合う以上、実力行使には出られなかったらしい。
「まぁ、平和だね」
そういうしかないスザクだった。
ちなみに、ルルーシュが日本に来たときに着ていた水着はパレオ付きのワンピーズだ。マリアンヌが同じ柄のビキニを着ていたので母娘でおそろいなのだとスザクは思い込んでしまったのだ。
その時の写真があると言えばきっと「処分しろ」と言われるのは目に見えている。大事な思い出だから隠しておくべきだろうとスザクは判断している。
同時に、それは間違っていないと確信していた。