ペーパー小話
お米騒動
「米が食べたい」
過去にスザクが口にしたわがままらしいわがままはこれだけだった。
無理矢理連れてきたようなものだから、好きなだけわがままを言ってくれてもいいのに、彼が口にしたのは、慣れ親しんだ食事に関することだけである。だが、そのくらいならば自分でもなんとかなる。日本から米を輸入させるだけですむから、だ。
しかし、それだけではすまなかった。
むしろとんでもない状況になったと言うべきか。
ことが大きくなったのは、スザクの言葉を聞いていたのが自分だけではなかったからだろう。
「そうね、食生活があわないのは一番辛いわよね」
そばで一緒に聞いていたマリアンヌがこう言い、
「ならば作らせれば良かろう」
シャルルが何気なくこういったことが原因だ。皇帝の一言がどれだけ影響力を持っているのか、一番自覚してほしいと思う。そして、どのような戯れ言であろうと、皇帝の命令は命令だ。周囲の者達が動かないはずがない。
その結果、アリエスには田んぼがある。
「もうじき収穫だな」
頭をたれている稲穂を見ながらルルーシュは言う。
「そうだね。今年も豊作かな?」
スザクが即座にこう言い返してきた。
「でも、ここまで本格的に稲作をするとは思ってもみなかったな。ちょっと食べたかっただけなのに」
さらに彼はこう続ける。
「安心しろ。俺もだ」
ルルーシュも苦笑と共にうなずいて見せた。
「まさか米の品種改良まで始めるとは……あのロールケーキの凝り性ぶりは初めて見た」
それでも被害は少ない。だからかまわないのではないか。
「うまい米が食べられるからいいか」
そう言いながらもルルーシュは視線を田へと向ける。
「そろそろ刈り入れか?」
「だねぇ。今年もたくさんおにぎりを作らないとね」
新米だけはみんな食べに来るから、とスザクは笑う。
上品に食べるものも多いが中には両手でおにぎりを持って食べる人間もいる。もちろん、マリアンヌはその筆頭だ。それにつられたかのようにシャルルもおにぎりを遠慮なく口にする。その結果、おにぎりの具材について詳しくなったシェフがアリエスにはいるのだ。
ある意味、無礼講と言える場だからこそ、遠慮なく文句を言い合っている姿もよく見られる。それを聞きつけたのか、参加を希望する貴族が増えてきているのだ。
「誰かに取り入ろうとする者達も含めてな。もっとも、そう言う人間をここに入れることはないが」
そういうことができるのがアリエスのいいところだ。ルルーシュはそう言って笑う。ここに関してはシャルルですら決定権を持っていない。最高権力者はあくまでもマリアンヌである。
「いずれはこの米がブリタニア中で作られるかもな」
収益性と連作障害の少なさからそんな話も出ている。ただ、適応温度の幅が狭いやめに作付けできる地域は限られるだろう。
「そうなったら楽しいね」
ブリタニア中に田園風景が広がるのか、とスザクはつぶやく。
「日本より国土が広いから、田んぼも規模も大きいよね」
それは見応えがあるだろう。彼はそう告げる。
「でも、日本の棚田の光景も俺は好きだぞ」
あれはきれいだ、とルルーシュは言う。
「ありがとう」
やはりふるさとを褒められると嬉しいのか。スザクはふわりと優しい笑みを浮かべる。それにルルーシュの心臓が大きく脈打つ。
「早くおにぎり食べたいなぁ」
だが、その後に続けられた言葉であっさりと霧散してしまったが。
「そうだな」
もっとも、その気持ちもわからなくはない。そう考えてうなずく。
「待ち遠しいな」
そして、こう続けた。