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ペーパー小話

酔っ払い

 やってしまった。
 目が覚めて真っ先に脳裏を駆け巡ったのはそんなセリフだ。
 もっとも、鼻先がくっつきそうな距離で秀麗な顔を見たのは初めてではない。それどころかもっと他のこともよく知っている──たとえば、彼の肌の熱さとかだ──それらもお互いに合意の上での行為だから、後悔なんてするはずもない。
 では何を、と言われれば簡単だ。今、スザク自身を襲っている頭痛とめまいである。
「……完全に飲み過ぎた……」
 このつぶやきを漏らしただけでがんがんと耳元で銅鑼を打ち鳴らされているような感覚に襲われた。
 自分がこうならばルルーシュも同じだろう。
 それもこれも、日本から送られてきた新酒がおいしかったからだ。と言うと八つ当たりに聞こえるかもしれない。だが、本当においしい酒は水のようにすいすいと飲むことができる、と言うのが真実だと思わせるくらいに口当たりのいいものだった。
 間違いなくそのせいだろう。己の限度を超えて飲み過ぎたのは。
「とりあえず、味噌汁でも飲もう」
 二日酔いに効くフリーズドライのシジミの味噌汁もストックしてあるし、とスザクはつぶやく。そのままおそるおそると言った様子で上半身をベッドに起こした。
「うぅっ……世界が回る」
 しばらく目を閉じることでそれをやり過ごす。
 なんとかなりそうなくらいまで落ち着いたのを確認してからベッドを降りる。
 そして、部屋に併設されている簡易キッチンへ行くとまずは湯を沸かした。こういうときに電気ポッドは楽だな、と思う。そのまま棚の中からマグカップを二つとりだした。お椀でないのはご愛敬というものだろう。苦笑を浮かべつつ引き出しから味噌汁のパッケージを取り出した。外の袋を破ると中身だけをマグカップに放り込む。そして、お湯を注いだ。
 次の瞬間、味噌の香りが鼻腔をくすぐる。もちろん、きちんとだしをとるところから手間暇をかけて作った味噌汁には叶わないが、今は十分だろう。
「いい香りだな」
 カップを手にベッドのそばまで戻ればルルーシュがこう言ってくる。
「起きてたんだ」
「頭痛がひどくてな」
 そう言いながら彼はゆっくりと身体の向きを変えてまっすぐにスザクを見つめてきた。
「僕も似たようなものだよ」
 あれだけ飲めばね、とそう続ければルルーシュはため息を返してくる。
「と言うわけで、はい。インスタントだけど」
 マグカップを差し出せばルルーシュは素直に受け取ってくれた。そのまま彼はカップに口をつける。スザクも自分の分をゆっくりとすする。
「シジミか」
「そう。二日酔いの時にはこれだよね」
 アルコールを分解するための水分だけではなく肝臓にもいいし、とスザクはうなずく。先人の知恵とは侮れないものだ。
 実際、少しだけとはいえ体調が良くなっている。
 しかし、だ。そうなればそうなったで新たな問題に気付いてしまう。それはルルーシュも同じだったらしい。
「大使館に連絡をして同じものを用意させるとして……いつ届くと思う?」
 こう問いかけてくる。
「今日中は無理だね」
 時差を考えれば、とスザクはため息交じりに言い返す。
「やはりな。ブリタニアかエリアであればわがままも通せるのだが」
 日本ではそこまでできない、と彼もため息をつく。できたとしてもせいぜい大使の尻を蹴飛ばすぐらいだろう、とも付け加える。
「覚悟だけはしておくしかないね」
 今回だけは自分たちが悪い。スザクはそう言う。
「そうだな。母さんの存在を忘れたのは事実だ」
 そう言いながらルルーシュはテーブルの方へと視線を向ける。そこにはからになった四合瓶の山が転がっていた。
「次からは一升瓶で届けてもらわないと」
 味が変わるからと一瓶の量を少ないものにしたのが失敗だった。スザクのこの言葉にルルーシュもうなずいて見せた。

 マリアンヌが怒鳴り込んで来たのは、それからすぐのことだ。その結果、二人がまた頭痛に襲われたのは否定できない事実である。
「自業自得よ!」
 こう叫ぶ彼女に二人は反論できなかった。それが彼女の迫力だけではないことは言うまでもないだろう。

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