ペーパー小話
カボチャプリン
「怖い話?」
何故かナナリーがそんなことを聞いてきた。
「はい。日本の怖い話があれば教えてください」
「何故って、聞いていい?」
怖い話というのはそれなりに知っている。しかし、中には女の子やちいさな子どもに聞かせられないようなものもあるのだ。しかも、それが過去に実際行われたことがあるものだと言うのだから微妙な気持ちになる。
「お友達の一人が映画を見てきたからですわ」
スザクのそんな様子に気付いているのかいないのか。ナナリーがこう言い返してくる。
「あぁ。あれか」
一緒に話を聞いていたルルーシュがこう言ってうなずく。
「現代怪談の二大巨頭が対決するあれね。僕、まだ見てないんだけど」
と言うことは、あまりグロ系じゃない方がいいか。スザクは心の中でつぶやく。
「と言うことは、最近のものの方がいいよね」
さらにそう続けた。
「最近のもの?」
「古いものもあるのですか?」
即座に二人からこんな声が返ってくる。
「古事記自体そう言うのの宝庫だから……千二〜三百年前前からあるよ」
スザクがそういえば、二人は驚いたような表情を作った。
「最近のだと、キサラギ駅とか八尺様とか猿夢、禁后、くねくね、カンカンダラ、ヤマノケ、コトリバコとかかな」
まだ色々とあるけど、ぱっと思いつくのはこのあたりだ。
「キサラギ駅、ですか?」
ナナリーがそう問いかけてくる。一番無難なのを選んでくれて良かった、と本気で思う。
「交流掲示板に書き込まれた実況が最初なのかな。いつもの駅だと思って降りてみたら、真っ暗な知らない駅だった。その駅の名前が『キサラギ駅』でね。それでも、次の電車に乗って返ればいい。そう思っていたのに、いつまで経っても来ない。駅の周囲も見知らぬ街だ。だから、最後にはトンネルを歩いて次の駅に行く……と言う書き込みを最後に書き込みが途絶えたって話。その後も似たような話がぽつぽつと出てね。トンネルはくぐっちゃダメ。知らない人の車にも乗ってはいけない。自分の名前を忘れるとまずい。駅のホームで煙を出せば戻れる、とかそんな結果になったのかな?」
何故そんなところに行き着いたのか、何故その人物だったのか。それは誰も知らない。ただ、そう言うものだと言うことになったのだ。
「……携帯は通じるのか?」
「書き込みは出来たみたいだね。あちらからの通話はつながらないかすぐに切られるみたい。着信は大丈夫だって言うケースが多いけど」
今らしいよね、と言って笑う。
「日本は昔から正体がわからないものが怖いと思うみたいだし」
「ブリタニアは正体がわかっているものの方が怖いか」
特に人間か、とルルーシュがつぶやく。
「大丈夫だよ。ルルーシュもナナリーもブリタニアの最強に愛されているから」
「お母様のことですか?」
「そう。マリアンヌさんなら何があっても二人は守ってくれるよ」
敵の方がかわいそうになるくらい、とそう続ける。
「ただ、コトリバコが実実在したらまずいかも。あれは女性と子どもに害がある呪いだから」
しかし、それもマリアンヌなら簡単に打ち破りそうだ。そもそも、あれの呪いが彼女に振りかかれるのかとそんなことすら考えてしまう。
「もっと詳しく知りたいなら、そういうのを集めた本があるけど?」
閲覧注意もあるけど、としっかりと付け加えておく。
「貸してください。日本のそう言う話は人気なので」
ナナリーのその言葉にルルーシュが深いため息をついた。
「処刑方法や拷問方法に興味を持つよりマシじゃない?」
スザクがとっさにそう告げる。
「それが一番怖いな」
真顔でルルーシュがそう言い返してきた。
ざく切りにされたカボチャを耐熱皿へと入れる。少しだけ水を足すとラップをかけた。
それをレンジに入れて柔らかくなるまで加熱する。
柔らかくなったのを確認して、フォークでざくざくとつぶし始めた。
「何をしているんだい、スザク」
ちょっと量が多いかも、と思いながら作業をしていれば背後からそう声がかけられる。それが誰のものかは確認しなくてもわかった。
「何って……とりあえずカボチャの消費? 食べられるものを捨てるのはもったいないから」
そう言いながら視線だけをそちらに向ける。予想通り、ジノの姿が九人で来た。
「……確かにすごい量だな。理由は……って、聞かなくても想像がつくか」
「そう。ジャック・オ・ランタンの中身。とりあえず簡単なお菓子にしようと思っただけ」
本当は裏ごしした方がいいのだろうが、ここにはそこまでの道具はない。とりあえずつぶし終わったそれに砂糖と卵を混ぜていく。適当に味見をして少し甘めにしたところで牛乳で伸ばしていく。
「ルルーシュも気にしていたからね。もっとも、今は忙しすぎてこちらまで手が回らないらしいよ」
気分転換をしたくても余裕がないらしい。
「……あれの関係かな?」
ジノがそう言いながら顔をしかめる。
「多分ね。だから、僕の手作りで悪いけどお茶請けぐらいにはなるかなって」
十分に混ざったかなと思ったところで手を止めた。そして、器に分けるとラップをしてレンジへと入れる。
「何を作ってるわけ?」
「とりあえずはカボチャプリン? 好評だったら、今度はタルトでも作ろうかなって考えている」
タルト台はお店で売っているものだけど、と続けた。
「スザク、料理できたの?」
ジノの影からアーニャが姿を見せる。
「料理ってほどのものじゃないけどね」
火を使っているわけじゃないから、やろうと思えば小学校の子どもでも作れるはずだ。
「このくらい出来ないとダメだって、死んだ母さんが教えてくれたんだよ」
ジノのように何でもしてくれる使用人がいるならともかく、自分はとりあえず庶民だから、と笑った。
「それは正しい。ジノは戦闘以外ではただの無能」
「アーニャ……」
「マリアンヌ様でも掃除と洗濯はご自分で出来る」
ジノは出来ない、と言う言葉にスザクは苦笑を浮かべる。
「本当に貴族様だね、ジノは」
いい意味でも悪い意味でも、とその表情のまま言葉を重ねた。
「でも、それもブリタニアでは普通なんだから、アーニャもあんまりからかわない方がいいかな?」
マリアンヌをあまり良く思っていない人間に聞かれたらどうなるか。言外にそう告げればアーニャも納得したようだ。
「わかった。ジノをいじるのは周りに人がいないときにする」
しかし、本当に理解できているかどうかは疑問だ。そう思ったときである。レンジが完成を知らせてくる。
「出来たのか?」
「多分ね。とりあえず、余熱でもう少し固めるから。その間にお茶の用意かな」
ジノにそう言い返す。
「私たちの分もある?」
「多めに作ったから大丈夫だと思うよ。もっとも、ルルーシュ次第だね」
後はロイドがいないこと、とスザクはアーニャに笑いかける。
「とりあえずルルーシュに『お茶にしませんか』と言ってきてくれないかな?」
「わかった。伝えてくる」
アーニャはそう言うとルルーシュの執務室へと足早に向かった。その背中を確認しつつ、人数分のカップを用意する。
それからレンジからカボチャプリンを取り出した。ラップを外してカラメルソースをかける。
「スザク。ルル様、お茶にするって」
タイミング良くアーニャが戻ってきた。
「こっちも準備できたよ」
一休みしよう、と告げるとスザクはそれらを乗せたお盆を持ち上げる。そして歩き出した。