ペーパー小話
温泉に行こう
時間が出来たから、温泉にでもつかってゆっくりしたい。そう考えるのは自分が日本人だからだろうか。
そう考えていたのだが、ルルーシュも同意をしてくれた。だから、ある意味、そう考える人種は全世界にいるらしい。それならば、ととりあえず旅行の計画を立てた。もちろん、二人で行くならばあれこれと出来るかな、とそんな下心があったこともスザクは否定しない。
もっとも、旅行にナナリーやマリアンヌが同行を申し出てきたならばあきらめようと考えていた。さすがに彼女たちが一緒の旅行で一日中部屋に閉じこもっているわけにはいかないからだ。それに、二人ならば最終日には気を利かせてくれるだろうという期待もあった。
しかし、だ。
「何であの方まで一緒に来るのかなぁ」
目の前で湯船につかっている人を見てスザクはため息をつく。
「俺に言うな、俺に」
その隣にはうんざりとした表情のルルーシュがいる。
「これじゃ息抜きにならないだろうに」
さらに彼はこう付け加えた。
「だよね。どこの世界に上司と息抜きに来る人間がいるんだろう。職員旅行ならともかく」
スザクもこう言って同意する。
「一番むかつくのはあのロールケーキが予想以上にいい筋肉をしていることだよな」
自分は筋肉がつきにくいのに、と恨みがましくルルーシュは口にした。
「ルルーシュはそのままでいいよ」
むしろマッチョになられては困る、とスザクは真顔で言う。
「お前はそう言ってくれるが、男として、だな」
「うんわかっているけど、それでも仕方がないでしょう? トレーニングしている暇もないわけだし」
「そうだな。忙しいのが悪い」
ため息とともにルルーシュがこうぼやいたときだ。
「何の話をしておる?」
前を隠すこともなく堂々とシャルルが歩み寄ってくる。
「陛下のお体に筋肉がしっかりとついていてうらやましいとルルーシュが」
とっさにスザクはこう口にした。もちろん、後半は嘘だ。
「そうか、そうか」
だが、シャルルは満足そうにうなずいてみせる。
「こういう裸のつきあいもたまにはよいものだの」
さらにこう付け加えた。
「その時は、他のきょうだい達とどうぞ」
すかさずルルーシュが口を開く。
「父上のお立場なら、こういう行事はすべて公平でなければ」
そうでなければ後から何を言われるかわからない。万が一のことが計画されていても、ビスマルク達が一緒なら問題ないだろう。
「……不本意だが、お前の言うことが正しいか」
少しだけ不本意そうな声音でシャルルはうなずく。
「だが、今回はお前達とゆっくり過ごすぞ」
仕事はすべてシュナイゼルに任せてきたし、と彼は笑う。
「兄上が先に過労で倒れるんじゃないか?」
「……否定できない」
余計なことを企画してごめんなさい、と宰相府にいるであろうシュナイゼルに心の中で謝るしか出来ない。
「さて。今宵の夕餉は何であろうな」
そう言いながらシャルルはルルーシュの隣に腰を下ろす。その瞬間、ルルーシュがどのような表情を作ったかは彼等の親子関係のために秘密にしておくべきだろう。
後日、衝撃の事実が発覚した。
「シャルル? 毎日三時間はトレーニングさせているわよ」
さらりとマリアンヌがこう言う。
「どんなシャルルでも愛せる自身はあるけど、やっぱり格好いい方がいいじゃない?」
太っているよりは引き締まっている方がすてきだ、と彼女は笑う。
「そのしわ寄せがこちらに来ているわけですが……」
「あきらめなさい。母さんのためよ」
どこまでもマリアンヌはマリアンヌだった。